中島由佳利

『新月の夜が明けるとき
 −北クルディスタンの人びと』

新泉社 2003年12月刊
定価2200円+税 ISBN4-7877-0312-9
四六判上製 320頁


*推薦のことば 
鎌田 慧氏(ルポライター)
絨毯に魅せられてトルコを旅しているうちに、著者はトルコ兵士や警官に迫害され、虐待されているクルド人の現実から目をそらせなくなる。彼らとの交流を通じて、怒りと悲しみを共有し、伝えようとする情熱によって書かれた作品である。いま、トルコでのクルド人問題が、日本のなかのクルド人問題として浮かび上がっている。わたしたちは、いつまで、政治亡命を希望するクルド人を、トルコに強制送還させて平気な、無知で傲慢な「難民鎖国」の住民でありつづけるのか。

■■■ 書評から(抄) ■■■

●斎藤貴男氏「クルドで紡いだ身近な問題」
遠い外国の、縁もゆかりもないマイナーなテーマなどではまったくない。マイノリティーや階層間格差の拡大など、私たちもよく似た問題を抱えているという比喩的な意味に加えて、日本のODAが彼らの悲劇を増幅しかねない側面を伴い、またクルド難民受け入れの場面では、私たち自身の価値観、生き方をも問われることになる。そのあたりを紡ぎ出す軽妙でミステリアス、かつ真摯な本書のタッチは、読み物としても味わい深い。
(「サンデー毎日」04年2月29日号)

●井家上隆幸氏「最近出色のルポルタージュ」
現実を、悲しみと怒りをこめてルポルタージュする中島由佳利の眼は、必然、弾圧を逃れて日本にやってきたクルド人難民の現実に向けられる。プロローグにえがかれるように、日本政府はクルド人を「難民」と認めず、入管に拘束し、トルコへ強制送還する。そうされた者の運命は悲惨の一語につきる。/中島由佳利は、その悲惨に耐える者と同心する。ルポルタージュとは事実または真実をありのままに、努めて客観的に報道するものという認識からすれば、これは「直感」を武器としてきわめて主観的である。その主観が、「日本から訪れたありふれた一旅行者が、クルディスタンでクルド人と出会い、クルドについて学び、関わりをもつなかから、世界の現実を、そして日本社会が抱える問題について知っていく過程」をえがいた本書を問題の本質に迫るルポルタージュにしているのだ。
(「ダ・カーポ」04年2月4日号)
絨毯に魅せられた旅が、トルコのクルド人の怒りと哀しみを共有する旅となり、無知で傲慢な「難民鎖国」日本を凝視する眼となるルポルタージュ。当初旅をともにした松浦範子『クルディスタンを訪ねて』(新泉社)が“情”ならばこれは“理”。
(「噂の真相」04年2月号)

●鎌田慧氏「読書アンケート」
ごく平凡な旅人だった著者が、ひとつの状況に遭遇して、その問いかける意味に真摯につきあうようになる。旅人が記録者になり、運動家になっていくプロセスが、共感を感じさせる筆致で描かれている。……日本に帰ってきても、クルド人の亡命を認めない日本で、クルド人との交流をふかめ、運動に参加するようになる。最近、すくなくなってしまった、参加型ルポルタージュの力作である。
(「みすず」04年1・2月号)

●丸山純氏「『もうひとつのトルコ』を知る旅」
美しいトルコ絨毯を織る女性に会いに行くはずの取材が、織り手のクルド人たちが直面する現実を前に、いつしか「もうひとつのトルコ」を知る重苦しい旅に変質していく。その過程がまるでロードムービーのように、クルドの町々を訪ねゆくバス旅行として描かれる。……さらに在日クルド人難民の支援にも活動の場を広げていくようになる。その勇気と、深まっていくクルドへの思いが、静々と胸に染みる。……「世界が自分たちに無関心であることに深く傷ついている」という彼らのことばが、心に響く。
(「望星」04年3月号)
http://www.tokaiedu.co.jp/bosei/books/0403.html

●小倉英敬氏「クルディスタンの現在を伝える」
著者はPKKやHADEPの支持者ばかりでなく、「コルジュ」としてトルコ政府によるPKK掃討に協力した人々を含む幅広いクルドの民と交流してクルド問題の本質に迫っている。そうした著者のクルド問題に対する姿勢が、在日クルド人難民問題に関わらせ、幼い娘にも難民問題を肌で感じさせようとする姿勢を描ききる筆致は感動的である。/われわれがなすべきことは著者とともに、人権上問題を抱える在日クルド人の難民認定を入管当局に求めるとともに、彼らの生活を含む支援を拡大することである。人間としての尊厳を侵害する国家権力の非人道性をともに追及してゆかねばならない。これこそが真の連帯の道だろう。
(「インパクション」140号、04年3月)
http://www.jca.apc.org/~impact/

●木村倫幸氏「世界の現実と日本社会の持つ問題を考える手がかり」
本誌第85号(2003年8月)で紹介した『クルディスタンを訪ねて――トルコに暮らす国なき民』(松浦範子、新泉社)の姉妹編とでも言うべき書である。先の書が、写真家としての眼を通した直観的な鋭い切り口でクルディスタン問題を照らし出すのに対して、本書は、ノンフィクション・ライターとしての筆によってこの問題を切り分けて、その複雑な構造を解明していく。/ところが本書は、この問題についてのいくつかの絡みあった要因がそう簡単には解けないことを、不本意ながらわれわれに示す。この意味ではいわば割り切れない書である。しかしそれだけに問題の根は深いし、その根の一部が日本社会にも届いていることを知らねばならない。評者は先の書評の終わりに、「……中でも子供たちの笑顔にクルドの人々の将来を見たいと思う」と記したが、その未来がどれだけ困難な構造を持っているかについて、思い知らせてくれたのが本書であると、反省の弁を込めて言わざるを得ない。……イラクに自衛隊を派遣した日本も、クルディスタン問題とは無関係ではあり得なくなっている。/さらに、クルディスタンからの難民に限らず、難民問題についての意識も制度も極端に遅れている日本の現状に、警告を発し続けているのも、本書の特記すべき点である。難民問題に慣れていないというよりも、ほとんど無知に近い現状を、どう変えていくのか、本書が提起している問題は重い。……まさしくクルド問題から、世界の現実と日本社会の持つ問題を考える手がかりとして、本書はある。混乱の続く新月の夜からは、未来の日の出はまだまだ見えてこないが、しかしこの夜がいつか必ず明けることを信じるクルドの人びとへの、著者の思いが伝わってくる書である。
(季報「唯物論研究」88号、2004年5月)

●北村満里子氏「千のため息、千の涙、千の反乱、千の希望」
私は友人と文明の十字路といわれるトルコを旅し、満喫した。ガイドは大学を出て間もないクルド人だった。トルコ東部の話を聞きたいと思いながら、腰が引けて聞けなかった。今、その思いを埋めてくれる1冊に出会った。……淡々とした語り口からクルド人の優しさと彼らへの愛情がにじみ出てくる。音楽家でもある著者の感性を感じた。……虐殺が繰り返されたイラクのクルド人問題はイラク戦争でクローズアップされたが、日本が難民鎖国である現実はほとんど変わらない。トルコもEU加盟に向け改善の兆しはあるものの、新月の夜が明けるのは何時のことだろうかと胸が痛む。
(「ウィークリー出版情報」04年2月3週号)

●「かの地からの肉声」
絨毯を織る女性らに取材に行ったトルコへの旅で、同化政策を推し進めるトルコ人政権下、差別・迫害され、その実情を外の世界に理解されぬ、国なき民クルドの苦悩の深さを目の当たりにし…。そこにある他者の痛みから目をそらさず理解に努め、問題意識を持って行動したフリージャーナリストのルポ。人間の肉声のあるクルド問題読本。
(「東京新聞」「中日新聞」04年1月15日夕刊)

●「無関心に戦いを挑んだ書」
本来、ジャーナリストは、人々の無関心に警鐘を鳴らす役割を担っていたはずだ。しかし人の関心が集まる記事しか売れないという状況は、ジャーナリストの筆さえも止めてしまう。/本書は、そうした無関心に戦いを挑んだ書籍ともいえる。……何よりこのルポが素晴らしいのは、商売から、あるいはイデオロギーから書かれた作品でないことだ。「書く」ため以上に、出会った人々の心に近づくために筆者は行動していく。そのおかげで本書に登場するクルド人たちの人生から、読者はクルド問題を学ぶことができる。……見ないふりをしてきた悲惨な現実が、いきなり心に入ってくる。それでも不思議と読後感がさわやかなのは、筆者の真摯な取材姿勢と、どこか肩の力が抜けた余裕にあるのかもしれない。/面白く、しかも良書である。
(「記録」04年4月号)

*姉妹本*
松浦範子 文・写真『クルディスタンを訪ねて』(新泉社)
http://www006.upp.so-net.ne.jp/Nrs/shohyo1701.html

お問い合わせ
株式会社 新泉社 http://www.shinsensha.com
         電話03-3815-1662(担当:安喜)


・クルディスタン&日本友好協会
http://www.geocities.jp/komala_japon/


・クルド人問題研究
http://www1.odn.ne.jp/~cbq97680/


・クルディスタン日本語NEWS/超超ダイジェスト版クルド問題
 
http://blog.nettribe.org/btblog.php?bid=postx
 http://members.at.infoseek.co.jp/postx/ron/kurd.html


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