戸田清

『環境学と平和学』

新泉社 2003年7月刊
定価2800円+税 ISBN4-7877-0309-9
四六判上製 336頁


■■■ 書評から(抄) ■■■

猪野修治氏
学問としての環境学と平和学の創設を呼びかける著者は、種々の市民運動の実践活動を通じ得た平和と環境にかんする膨大な資料を並列し縦横無尽に読み込み、それらを分別・整理しながら平和学と環境学を統一的な関係性と理念性のもとに位置づける。その壮大な目配りにはただただ感服するばかりである。……なんども通読した。現代の国際政治環境を踏まえると、平和学・環境学・民主主義は、著者の言う直接的構造的暴力にたいする永続的持続的な闘いのなかに見いだすしかないと、評者はあらためて思った。万感の賛辞を送りたい。
(「週刊読書人」03年9月19日)


「ふぇみん」03年10月15日号
「直接的暴力b戦争や死刑制度b」と「構造的暴力b先進国や大企業のありかたが原因となる例が多いb」が存在している。この2つの暴力の間にはつながりがある。このことを、具体的なここ数十年の環境と平和が崩された出来事を例示しながら論証される。……ひとりの市民の目線で見えてきた問題意識で考え論じる姿勢に好感がもてる。引用されている文献の中には、一般書店にはなかなか並ばない運動系雑誌やミニコミ紙とよばれるところからのものが多くあり、よく眼を通しているものと驚かされた。


「出版ニュース」03年10月上旬号
本書は、経済のグローバル化がもたらす暴力性と「反テロ」を名目とした戦争が強行される状況にあって、「戦争と環境破壊と不公平」の世紀を「平和と環境保全と公正な社会」の世紀へと変えてゆく道筋と展望を示したものだ。……暴力の文化から平和文化への転換が提起されるのだが、そこで環境学の果たす役割というのは、環境保全そのものが「積極的平和」や「人間の安全保障」に欠かせぬ構成要素だという点だ。エコロジーと平和思想を実践化させる上で好適のテキスト。


近藤凱彦氏
私たちの常識では、また従来の政治学でも、平和の反対概念は戦争である。しかし、この本によれば、平和の反対概念は暴力だという。戦争が無くとも、飢え、貧困、疾病などなどで、人は命を失う。戦争やテロ、暴行などを直接的暴力、社会的制度や経済状態、経済開発などに含まれる、人を苦しめ病気や死に追い込むものを、構造的暴力という。なるほど、対イラク戦争の前にも、イラクに対する経済制裁があった。その結果イラク国民の死者は100万人以上を数えたという。戦争は無かったのだが、これを平和とは言えまい。経済制裁は構造的暴力だったのである。/この平和の反対概念を暴力とする理論は1960年代の末ごろから、外国の理論家たちによって提出されてきたものである。/構造的暴力という考え方をすると、環境問題の全体が構造的暴力の中に入ってくる。直接的暴力と構造的暴力の両方を解決して、真の平和が来るのである。本書のタイトルが「環境学と平和学」とされたゆえんである。
(「えんとろぴい」53号、04年6月)


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