2014.01.08 up 



NR出版会連載企画 NR版元代表インタビュー4
冤罪をなくすためには、弁護士を支援する必要がある
現代人文社(成澤壽信氏)


 現代人文社の創業は一九九四年。二〇一四年で創業二〇年を迎えます。創業者の成澤さんは、一九七二年に大学卒業後、日本評論社に入社し、雑誌『法学セミナー』の編集長などを経て、四五歳のときに独立しました。司法最大の失敗である冤罪問題をなくすため、雑誌『季刊 刑事弁護』を立ち上げるなど、刑事事件に携わる弁護士を支援する出版活動を続けてきました。


──どうして独立されたのですか?

 冤罪との出会いが大きかったですね。80年代はじめには、免田事件など死刑四事件がすべて再審で無罪になったんです。そこで、冤罪の原因と責任がどこにあるのかに興味をもち、いろいろ調べました。その成果は『法学セミナー 増刊日本の冤罪』(一九八三年刊)として出版しました。そこでわかったことは、もちろん誤ったのは裁判官ですし、誤った起訴をしたのは検察官でそれぞれに責任があります。しかし、弁護人(弁護士)にも問題があった。個々の弁護活動が不十分であったということもありますが、問題は、捜査段階で弁護人がついていなかったため、被疑者が弁護人の援助を十分受けることなく有罪になったケースが多かったということです。日本の刑事裁判は、捜査段階でほとんど勝負がついてしまう現状があります。独立する前あたりから、これを何とかしないといけないと、日弁連を中心に被疑者国選弁護人制度を導入しようと、「当番弁護士制度」を立ち上げて活発な運動を展開していました。ちょうどそのころ、刑事弁護に関する的確な情報を発信するメディアはなかったので、刑事弁護の専門誌をつくろうと決めました。わりと悩まないで独立しました。

──そうして、創業の翌年に雑誌『季刊 刑事弁護』を創刊されたのですね。

 刑事事件はそもそも儲からないと言われています。全国の弁護士三万人のうち国選弁護人に登録しているのは五〇〇〇人、本気で刑事弁護に取り組んでいる弁護士は一五〇〇人程度です。それには大きな理由があります。罪を犯してしまう人の多くが生活困窮者です。ですから、弁護報酬もあまりとれない。また、有罪率九九・九%という裁判の現状では、何を言っても裁判所は聞いてくれないと虚しくなるんです。それで、若いときは刑事弁護をやっていても、一〇年目くらいの事務所を独立するころから刑事弁護離れがおこります。そんな現状だから、刑事弁護に特化した雑誌なんか大丈夫かとまわりから心配されました。しかし、意外と裁判官など他の法曹関係者が購読しているようで、来年はなんとか創刊二〇年を迎えることができそうです。

──出版活動としては、メディア関係のテーマのものもありますね。

 私の得意分野は、刑事弁護はもちろんですが、ほかにメディア、国際人権を入れて3つが大きな柱でした。メディア問題は、とくに犯罪報道に取り組んでいます。これも冤罪との関係が深いんです。ロス疑惑事件の三浦和義さんのように、メディアがあいつは犯人だと煽ったことが冤罪につながっていくケースもあります。免田事件の免田栄さんは再審で無罪になりましたが、まだ偏見の目も残っており、地元には住めなくなりました。その原因は犯罪報道にあります。一度、犯人だと報道されると取り返しがつかない被害にまで及んでしまう。

──司法の分野での今後の課題はどのようなところでしょうか。

 若いときから、欧米にある陪審裁判にもすごい興味があって、それを日本に導入しようと作家の伊佐千尋さんたちと運動をしていたんです。市民が陪審員という一回かぎりで裁判に参加し、新鮮な目で証拠を見て判断するということで、職業裁判官が陥りがちな「有罪病」を防ぐ意味もあります。市民の司法参加としては十分ではないですが、これは裁判員裁判で実現にいたりました。これで大きく変わったのは法廷の雰囲気です。法曹以外の市民が入ったため法廷に緊張感が生まれました。残された問題は、捜査段階の被疑者取調べの全面録音・録画(可視化)と、検察が集めた証拠に弁護士がアクセスできる全面証拠開示です。
 また、3・11の原発事故発生後は、脱原発、エネルギー問題にもテーマを広げています。ただ「脱原発」とお題目を唱えていても社会は何も変わらないということがはっきりしてきた。そこで、地産地消のエネルギーをつくっている各地の取り組みを共有するための出版活動もしています。来年で六五歳になりますが、もうひとがんばりしないといけないと思っています。



現代人文社の出版活動を通して、新聞やニュースでは捉えきれない戦後司法の問題をダイジェストのようにうかがい、刑事事件において、弁護士がこんなに不利な立場にあるということに初めて思い至りました。普段はクールな成澤さんの、実は誰よりも熱い志を垣間見たような気がしました。(事務局・小泉)

(「NR出版会新刊重版情報」2014年1月号掲載)

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