2021.01.07 up 






NR出版会連載企画 
本を届ける仕事19
 職業人としての書店員でありたい
三玉一子さん(喜久屋書店倉敷店/岡山県倉敷市


 年末年始の繁忙期を前に、二度目の産休育休を一〇月終わりからいただいている。前回の産休までの期間に比べるとあっという間に来てしまった。子育てと仕事をしながら迎える産休までの日々は以前にもまして濃密なものだったのだと、休業に入った今、実感している。長女の育休から復帰して二年が経過し、仕事への向き合い方、考え方は出産前とはずいぶん変化した。

 復帰した二年前、長女が三歳になるまでの間は時短勤務制度を利用させてもらい、通常フルタイム七・五時間勤務だったところが六時間勤務になった。月数回の閉店までの残業もなくなり、業務をこれまで通りこなそうとすると時間が圧倒的に不足した。プラスアルファの創意工夫をする時間の捻出が難しくなり、イレギュラーな業務が発生した日は通常業務をギリギリで終わらせて退社、ということが多くなった。上司と相談し、担当している人文・文芸棚にはともに作業するスタッフを入れてもらい、育成を開始。そうすることで、全体管理の業務も同時にこなせる余裕が生まれた。

 私自身の業務上の問題は、フォローしてくれる同僚たちのおかげで解決したが、そこに長女の保育園での洗礼とも言える様々な病気をもらってくる問題が発生すること数知れず。出社した直後にかかってくる保育園からの呼び出し電話におびえる日々。子の看病をする私ももれなく子供の病気をもらう。保育園でもらってくるウイルスは強力なのか、感染力も威力も半端ない。今までほとんど病気をしたことがなく仕事を休むことなど稀だったが、「子供の看病で休みます」と申し訳なさでいっぱいになりながら出社日当日に電話を入れることが増えた。以前の私は、子の看護の休み連絡をスタッフからもらうたび、「体調管理の意識が甘いんじゃないのか、誰かに頼めないのか?」と心のなかで思いながら、つい苛立ってしまうことがあった。なんと無知であったことだろう。実家の親にしょっちゅうは頼めないし、夫と協力しつつも困難であったりもする。今はこうした時期であるから仕方ないと割り切ろう、と自分自身に言い聞かせつつも、仕事に集中しきれないもどかしさと悔しさがぬぐえないこともあった。

 二度目の産休前の引き継ぎ業務を進めるなかでも、仕事への向き合い方に変化があった。一度目は復帰後の自分の居場所づくりに必死だった。妊娠をハンディだと思われたくなくて、他のスタッフ以上に妊婦だって仕事はできるのだとアピールしてかなり無理をした部分もある。

 今回は違った。復帰後、サブスタッフを育成したり、多くのスタッフに業務を分担してもらうことが増え、役割分担をしながら仕事を進めるチームの一員だという意識がとても強くなった。前回の不安は、誠実に仕事をこなし自然と信頼してもらうなかで、自分の居場所は自然と出来上がっていくものなのだという穏やかな確信に変わっていた。それよりも、自分の経験と知識を一人でも多くのスタッフにシェアして継承していく重要性を意識しながら引き継ぎをした。私が先輩上司に教わった何気なくやっている基本的な大切な核を意識的に伝えること?例えば、新刊は積むだけではなく棚に必ず一冊さす、初回配本数が少なくもっと売れると思えばその日に追加発注、というところなど。それを身体に染み付くように教わったスタッフは必ず良い書店員に成長する、という希望をもって引き継ぎ業務にあたったことが、自分のなかで新鮮な変化だった。人は信頼されると自由に動ける。こちらが信頼し、任せ、任せられた方は自身で考え、創意工夫して働くなかで「本を売る」商いの喜びを感じてほしい。

 人生において考え方や価値観を大きく揺さぶる出来事、要素は人それぞれで異なるし、様々だと思う。私の場合は、子育てという要素が働き方、仕事への向き合い方を大きく変えた。もちろんプラスの意味で。

 同僚で母としての先輩に、このような言葉をもらった。「子供を産んで育てるとは、一人の人間を自分の力で生きていけるようにする、一生をかけての役割だと思います」。それはきっと書店員という職業においても同じなのだろうと思う。お客様に通ってもらえる棚を自分の手で作っていける職業人としての書店員を一人でも多く育てたいと思うし、自身もそのような書店員でありたいと思う。


ご結婚前の楫一子さんのお名前で5年前に執筆していただいて以来、2度目のご登場です。単行本『書店員の仕事』に収められた「非効率でも、アナログでも」には、本を探しに来た方を繋ぐ顔の見える橋でありたい、と綴っていらっしゃいました。学生の頃、問い合わせた本の場所にすぐに案内してもらったという体験が、思えば書店員になるきっかけでしたと振り返る三玉さん。そのときの体験を温め今の彼女が在ることを知り、前回のご寄稿を読み返しながら、お客さんだけでなくスタッフも繋ぐ要のような方なのだと改めて思いました。(事務局・天摩)

(「NR出版会新刊重版情報」2021年1・2月号掲載)

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