2020.03.10 up 






NR出版会連載企画 
本を届ける仕事15
 奥が深くて底が見えない、一生の仕事
中原高見さん(くまざわ書店武蔵小金井北口店/東京都小金井市


 くまざわ書店武蔵小金井北口店は、JR中央線の武蔵小金井駅前にある、人文書や教養書、カルチャー系、本好きの方が読むような本など、「いい本」がよく売れる店です。オープンして今年で五年目に入りました。

 開店当初からの目標は、「おもしろい店」をつくること。当店の前は昭島店に勤務していて、売り場を見た上司からはよく、「棚がつまらない」「このフェア、安易だよね」「なにか発見があったらメモしようと思って平台を見てきたけど、なにもメモすることがなかったよ」と、いつも自分で考えさせるようなことを言われていました。

 どこがつまらないんだろう? そもそも、おもしろい売り場ってなんだろう? 上司にはいろいろなことを言われましたが、数年後、十数年後の今になって「こういうことだったのか!」と気づくことが多くなりました。

 「おもしろい店」という目標も、もともとかっちりとした理想像があったわけではなく、五年の間、売り場に立って考え続け、すこしずつイメージができてきたものでした。本と本との組み合わせ、並べ方によって、お客様を立ち止まらせたり、考えさせたり、くすっとさせたりできる! これも本屋の醍醐味です。わたしがイメージする「いい本屋」とは、そんな「しかけ」をあちこちに作ること。お客様にとって本屋は本と出会う場ですが、書店員にとっても、売り場という場があるからいろいろなことを考えることができると感じています。

 ツイッターも開店当初から始めました。おもしろい本を定期的に紹介してくれるアカウントがあったら、自分ならうれしいなあ、と思ったので、それをめざして本の紹介を中心にしています。とにかく更新をたくさん(週に一〇〇ツイート目標)、そして、なにより続けること(これが難しい)。

 以前、ある出版社の方が、「貴店のツイッターは、私の新刊案内です」とおっしゃってくれました。それをめざしていたので、とてもうれしかったです。

 また、ツイッターでは売り場の写真を紹介することにもこだわっています。その本はどの売り場に置いているのか? どの本と隣り合わせに陳列しているのか? ツイッターを見て気がついてくださるお客様もいます。

 一冊一冊の本の写真は著者や出版社の方も撮れますが、そのときどきの本屋の売り場の写真は書店員にしか撮れない。いつも「いい本」をありがとうございます!  という感謝の気持ちを込めてアップしています。それが、一緒に本を読者に届ける際の書店の役割のひとつとも思っています。

 ツイッターを見て当店に来てくれる出版社の方もとても多く、それが縁でさまざまな企画やフェアなどをおこなうこともあります。

 ときには、ツイッターをご覧になった著者から返信をいただいたり、実際にご来店いただくことも!

 私にとっては雲の上の存在で、実際にお会いすると何を話していいか分からず、ドギマギしてしまうのですが、いざお話ししてみると、どうにかして多くの読者に本を届けたい、と私たち書店員と同じ思いを持っていることがわかります。売り場を見て気に入ってくださり、お得意様になっていただくこともあります。先日おこなったトークイベントに、お客様として参加してくれた著者の方もいらっしゃいました。

 今や、当店にはSNSは欠かせないものとなってきています。そして、お客様に限らずせっかく来てくれた方をがっかりさせたくない、いい売り場にしたい、という気持ちをますます強くしています。

 世の中にはたくさんの「いい本」と、それを届けてくれる出版社があって、書店員はそれを受け取って売り場、棚という「場」で読者への届け方をつきつめていける。まだまだ知識が足りず、出版社や著者の方々、ときにはお客様からも教わりながらですが……。

 本屋の仕事は、奥が深くてまだまだ底が見えない、一生をかけてやっていける仕事だと日々感じています。


量販店の地下にあるくまざわ書店武蔵小金井北口店。「上の階がにぎやかなので、うちの店も同じくらいにぎやかでもいいかなと思って」と中原さんがおっしゃるとおり、新刊台やエンド台に厚く積まれた本がつぎからつぎへと目に飛び込んできます。下半分がはみ出ている本もあるほど、満載の平台です。くつろいだ様子でじっくり本を選び、ほくほく顔でレジに並ぶ常連のお客さんの姿を眺めていると、お店ができる少し前まで武蔵小金井に住んでいた私としては、とてもうらやましい気持ちになります。(事務局・天摩)

(「NR出版会新刊重版情報」2020年1・2月号掲載)

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