2009.02.24.up 


現代人文社
2月の新刊




GENJINブックレット56                       
裁判員をたのしもう! 裁判員裁判の傾向と対策
現代人文社編集部
/編
A5判並製・64頁・定価800円+税
ISBN978-4-87798-401-4


裁判員制度で、裁判というブラックボックスの一角が崩れるかも

現代人文社・成澤壽信

 最近、巷で評判が悪いものを2つあげると、麻生内閣と裁判員制度であろう。麻生内閣は、その支持率が20%近くにも落ち込んだ(読売新聞世論調査、2008年12月7日〜8日)。一方、裁判員制度については、「参加したくない」と答えた方は、77%で(2008年、NHK調査)、まことに評判が悪い。
 こうした疑問、不安だらけの裁判員制度ではあるが、本年5月21日実施と決まっている。おそらく7月ころには、最初の裁判員裁判が全国のどこかの地方裁判所で行われることは間違いない。
 たしかに、裁判員制度には、論者が指摘するように多くの問題点がある。捜査の情報公開が担保されていない。裁判員だけで事実認定を行わないので裁判員は裁判官の影響を受けやすく自主的な判断ができない。被告人に裁判員裁判を受けるか否かの選択権がない。量刑判断は市民には向かない。しかし、私自身は、こう
した批判は承知のうえで、はじめることが大事だと考えている。
 裁判員制度の是非を論じる際に、一番大事なことは、日本の刑事裁判の現状をどう見るかである。最高裁や法務省がいうようにうまくいっているか。答えは否である。1980年代の四つの死刑再審無罪をみるまでもなく、その後も、冤罪は起こっている。その原因は、密室の取調べ、長期の身体拘束、自白偏重、裁判官の有罪志向などと、弁護士、刑事法研究者、冤罪救援・支援の人々から指摘されている。
 しかし、このような日本の刑事裁判の病理は一向に改善する兆しがない。
 裁判員制度は、そうした日本の刑事裁判の病理を改善するきっかけになるのではないか。私はそれへの期待を大きくしている一人である。すでに、それは、取調べの録音・録画(一部ではあるが)、公判前整理手続での検察側手持ち証拠の開示(もちろん充分ではないが)などとして成果をあげつつある。
 しかし、裁判員制度が実施さえすれば、そのまま改善にさらに向かうと考えるのは早計である。ここには、大きな落とし穴がある。参加した裁判員(素人の一般市民)が積極的に関与し、そこに新鮮な風をつねに送り続けることが不可欠である。そうしなければ、結局これまでと同様の、法曹三者によるルーティンワークの裁判になってしまうおそれがある。
 まえおきが長くなってしまったが、本書のテーマは、これまでの批判本や解説本とは発想を180度転換して、裁判員をたのしんでみよう、という内容である。
 裁判員制度では、普段、お目にかかることも話しをする機会もない裁判官と会える。さらに、裁判官と一緒に仕事ができる。おまけに日当までいただける。おそらくこんなチャンスは一生に一度しかない。
 そこで、本書では、法廷、裁判官に慣れるための傾向と対策に重点をおいた。
 裁判員に選ばれたときのために、前もって裁判を傍聴しておくのはとってもオススメである。検察官や弁護人が時折発するよく
分からない法律用語、そして裁判の流れ、裁判所の雰囲気など、
慣れておくとその分、評議に集中できるからである。ステップ1では、裁判傍聴マニアでは阿曽山大噴火と双璧をなす霞っ子クラブの高橋ユキさんがガイド役になって、裁判傍聴のポイントを案内する。
 また、裁判員裁判では、裁判員6人と3人の裁判官が参加する。会社でいえば部長クラスの裁判長、裁判官経験10年程度の右陪席、新米裁判官の左陪席である。この三人は同じ部で、つねに一緒に仕事をしている。彼らの人間関係もまた面白い。評議に入れば、じっくりそれが見られる。
 ステップ2では、裁判官、検察官、弁護士など法廷の登場人物の性格、日ごろの仕事ぶりや人間関係など、じっくり人間観察するヒントを司法修習生が紹介する。
 最後は、裁判が終わったら裁判官を飲みに誘ってみる方法を伝授。そんなふうに裁判員をたのしんでみる。
 厳粛なる法廷をなんと心得ているのかとの、お叱りも承知の上で、あえてこんな本を作ってみた。何かと暗い話題ばかりの世の中、たのしみのひとつとして選んでみてはどうか。そのたのしみの中に、裁判というブラックボックスの一角を崩すエネルギーが秘められているのではないか。



NR関連書 裁判員制度と司法の課題



裁判員制度がやってくる あなたが有罪、無罪を決める
現代人文社|新倉修/編|800円|978-4-87798-149-5

裁判員制度は刑事裁判を変えるか 陪審制度を求める理由
現代人文社|伊佐千尋|1,700円|978-4-87798-281-2

えん罪を生む裁判員制度 陪審裁判の復活に向けて
現代人文社|石松竹雄、土屋公献、伊佐千尋/編著|1,700円|978-4-87798-343-7

甲山事件 えん罪のつくられ方
現代人文社|上野勝、山田悦子/編著|2,000円|978-4-87798-378-9

えん罪志布志事件 つくられる自白
現代人文社|日本弁護士連合会/編|900円|978-4-87798-391-8

はけないズボンで死刑判決 検証・袴田事件
現代人文社|袴田事件弁護団|800円|978-4-87798-150-1

日本の死刑
柘植書房新社|村野薫/編著|3,500円|978-4-8068-0298-3

なぜ死刑なのですか 元警察官死刑囚の言い分
柘植書房新社|澤地和夫|1,600円|978-4-8068-0544-1

死刑の大国アメリカ 政治と人権のはざま
亜紀書房|宮本倫好|1,700円|978-4-7505-9809-3

年報・死刑廃止2007 あなたも死刑判決を書かされる
インパクト出版会|年報・死刑廃止編集委員会/編|2,300円|978-4-7554-0180-0

年報・死刑廃止2008 犯罪報道と裁判員制度
インパクト出版会|年報・死刑廃止編集委員会/編|2,300円|978-4-7554-0192-3

免田栄 獄中ノート 私の見送った死刑囚たち
インパクト出版会|免田栄|1,900円|978-4-7554-0143-5

自白の理由 冤罪・幼児殺人事件の真相
インパクト出版会|里見繁|1,700円|978-4-7554-0168-8

修復的司法とは何か 応報から関係修復へ
新泉社|ハワード・ゼア|2,800円|978-4-7877-0307-1

NR出版会サイト┃トップ新刊重版情報既刊書籍リスト加盟社リンクNR-memo書評再録
Copyright(c) NR出版会. All rights reserved.