2008.03.14..up



柘植書房新社の新刊
好評発売中

荊冠の志操
西岡智が語る部落解放運動私記

西岡 智 著
四六判・上製・300ページ
定価 2,800円+税
ISBN978-4-8068-0571-7



同和利権の不祥事と『荊冠の志操』


黒田伊彦(大阪樟蔭女子大学)

 同和事業を利権化した不祥事が続発している。大阪市開発公社から新大阪駅近くの駐車場の業務委託を受け1億3000万円を着服したとして逮捕され、大阪地裁で懲役1年6ヵ月の実刑判決を受け控訴中だった飛鳥会の元理事長、小西邦彦は11月9日、肺癌で死去した。が、NHKの「岐路に立つ同和行政部落差別にどう向き合うか」(5月11日放映)の中で「同和に名を借りて、むちゃくちゃなことをやったのは事実。欲望やがな、わしも欲望があったのは事実」とカメラの前で語り、居直っていた。

 「馬賊」の頭目といわれた朱徳が、人民解放軍の司令官になり、中国民衆の尊敬を集めたように、「ヤクザ」にならざるをえない差別と貧困の原因に目覚め、その原因をなくす闘いに参加することによって、部落大衆も鍛えられていく。部落解放運動も人間変革の運動である。なかんずく、差別者への糾弾闘争は、人に後ろ指をさされるような行為をしていては、説得力をもたない。がゆえに、全国水平社創立大会で採択された綱領に「吾等は人間性の原理に覚醒し、人類最高の完成に向かって突進する」と規定する所以である。

 「荊冠の志操」とは、「解放が目的、事業は手段」との原則を堅持して、「権利もエゴの『利』ではなく、道理にかなった『理』であるべきだ。思想も、ものの考え方だけでなく、あるべき『理』を実現する『志』を堅持する『志操』であり、自らを律するものである」と著者はのべている(本書14頁)。

病魔と闘う自己への闘争宣言

 著者の西岡智さんは1970年代の狭山差別裁判糾弾闘争の高揚を創り出し、労・学・青の結合と反差別(被差別)統一戦線の共同闘争をつくり出した部落開放同盟中央執行委員会・書記次長で「狭山中央闘争本部事務局長」であった。1981年に同和利権をめぐる自浄能力の発揮を「西岡・駒井両中執意見書」で提起したが、入れられず中執辞任を余儀なくされた人である。

 いま、2年前に膀胱癌を切除し、胃癌のため胃の4分の3を切り取り、大腸癌のために大腸も30センチ切り取りながら、毎日6キロメートルも歩いて体力を鍛え、閻魔大王の呼び出しを拒否して、大衆集会やデモに参加しておられる。

 「生きている人間が、自分の半生を語るということは、気恥ずかしいものである。昔から『棺を蓋いて事定まる』といわれているからだ。……私は敢えてこの『語り』を自分自身への闘争宣言として、世に問いたいと思う」と著者は「まえがき」に記している。


歴史的証言としての「語り」の迫力

 本書の構成は
 1 生い立ち
 2 初期の運動経験
 3 矢田教育差別事件
 4 部落解放中国研究会の結成
 5 松本治一郎から学んだことなど
 6 狭山闘争中央本部事務局長として
 7 荊冠と銀のしずくアイヌ民族との連帯
 8 闘いの中で出会った人
 9 「西岡・駒井意見書」と今日の不祥事
 10 解放運動再生への提言ピンチはチャンス
である。3、4、6、7章は筆者(黒田)との対談でまとめられている。語られる事実の歴史的傍証と編集・解説は田中欣和・関西大学教授と筆者でおこなった。


現代の水平社宣言として

 著狭山差別裁判糾弾闘争のなかで生まれた「差別裁判うちくだこう」の歌の誕生秘話、日本共産党との対立と離脱、野間宏さんに『世界』に「狭山裁判」を連載させた経緯や『青年の環』と親鸞思想と「狭山事件」との関係、朝田善之助委員長の西岡罷免要求など類書にはみられないミステリアスな証言が紡ぎだされている。

 部落解放運動再生の提言でも、野中広務への麻生太郎の「野中のような部落出身者を日本の総理大臣にできない」という差別発言への、全国大行進による大衆的な糾弾闘争の組織化など、「狭山の西岡」ならではの経験に裏打ちされた新たな発想が随所にみられる。

 本書を読む人びとは「人間を勦るかの如き運動は、かえって多くの兄弟を堕落させた事を想」い、「吾等の中より人間を尊敬することによって自らを解放せんとする者の集団運動を起せるは、寧ろ必然である」という全国水平社宣言の文章を想起するにちがいない。本書は
「魂を揺さぶる現代の水平宣言」であり、
「被差別民衆の文化創造力をバネに」
「語りの歴史創造力を再認識」
させる警世の書であるといえる。


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