2007.06.21up

日本経済評論社
 
自分と仕事を考えるヒント(全2巻)刊行によせて


自分と仕事を考えるヒント 第1巻

大学のむこうがわ(大学編)
田中希久代、益山健一ほか/編
四六判上製・本文13級
1,500円+税
ISBN978-4-8188-1948-1
C1337

自分と仕事を考えるヒント 第2巻

未来と私のキャリア(社会人編)
田中希久代、益山健一ほか/編
四六判上製・本文13級
1,500円+税
ISBN978-4-8188-1949-8
C1337



大学におけるキャリア教育

江頭 進(小樽商科大学経済学部准教授)

 現在、小樽商科大学キャリア教育プロジェクトチームでは、キャリアバンク株式会社と共同で、大学生向けキャリア教育教科書『大学のむこうがわ』と社会人3年目までを対象としたキャリア分析書『未来と私のキャリア』を編集中である。これは本学が昨年度より開始した「10年キャリア教育プロジェクト」の一環として行われている。

 なぜわれわれが大学在学中のみならずその前後を含めた10年間を対象としたのか。これは現在の高等教育機関におけるキャリア教育のあり方に対する反省と再評価の結果である。そもそも大学にとって、キャリア教育は少子化や若年社会人の離職率の高さ、さらにはフリーターといった問題を抱えた文部科学省からせっつかれて始めたという経緯がある。それでも私立大学では就職率の高低がそのまま受験生確保に影響を及ぼし、ひいては大学の財政状況に影響を与えるため、その取り組みは真剣であるが、国立大学法人の場合、エキストラの仕事として敬遠され、外部の業者に丸投げされたり、「雑役」として若手教員に押しつけられたりしていることも少なくない。

 また、目先の就職率の改善のために、あたかも就活セミナーのごとくビジネスマナーや履歴書の書き方等の就職技術を教える科目になっている場合もあるようだ。もちろん、ビジネスマナーを身につけることは大事だし、履歴書すら書けない学生が多々見られるというのは事実でありそれを軽視するわけではないが、やはり大学でなすべき教育なのか、という疑念はぬぐえない。

 だが、それでは大学でキャリア教育は必要ないのだろうか。本学では数年前から高大連携事業を積極的に推進してきたが、そこで明らかになったのは、「大学入学を目的としていた学生」と「大学入学後に何をするかを考えていた学生」で1年生前期のモチベーションに決定的な差があるということであった。1年生前期は実は大学生活のリズムを作る上で非常に重要な時期である。したがって、高大連携活動は,高校生に対して大学での学問を教えるということは単なる地域貢献や受験生確保を超えて、学生のモチベーションの改善という点で大学自身にとって重要である。

 実は、キャリア教育はやりようによっては、これとまったく同じ効果を持つことが分かってきている。つまり、キャリアを「職業」ではなく社会人あるいはもっと広く「大人」としての生き方と定義し、人生をいかに生きるかという視点から大学時代の過ごし方を大学入学後できるだけ早い時期に考えさせることが、その後の学生の学習・研究意欲に対してプラスに作用するのである。

 したがって、本学でのキャリア教育は、人生の中での大学時代の位置付けに始まり、大学時代での過ごし方を、本学で学べる専門科目の体系を概観しながら考えさせるように進む。旧高商を前身に持ち、実学を掲げる本学でも実は、大学時代に身につけられるテクニカル・スキルはごく一部である。社会科学系学部の専門教育課程で教えられるもののほとんどは、コンセプチュアル・スキル(身の回りに起こっていることを理解し、それに対して自分の考えを持つ能力)とコミュニケーション・スキルである。前者は世界観といってもいいだろう。

 しかし、この2つのスキルこそ社会の中で重要な地位に就けば就くほど必要とされる能力である。就職そのものを目標としたキャリア教育では、入社後の離職率の高さを改善することはできないだろうし、当然その後の昇進にも繋がらず、結果的に大学の評価を落としてしまうことを理解しなければならない。しかし、これは小手先の教育で、身に付くものではない。むしろ、旧来大学教育の中心であった専門教育の中で獲得していくことが一番近道である。もちろん、そのためには、大学側にも、個々の教員がばらばらの講義をするのではなく、講義内容の有機的な結合を図るような努力が必要だが、それによって「専門家の卵」と言えるぐらいまで育て上げておけば、社会が大学に望む要求の多くが満たされてしまうことは間違いないだろう。

 現在、編集中の書籍は、このようなことを考えながら作っている。


NR関連書「学問のあり方を考える」

シリーズ 15歳からの大学入門
わかる経営学
小樽商科大学高大連携チーム 編
1,200円+税
ISBN978-4-8188-1767-8
日本経済評論社

シリーズ 15歳からの大学入門
美しい経済学
小樽商科大学高大連携チーム 編
1,300円+税
ISBN978-4-8188-1766-1
日本経済評論社

シリーズ 15歳からの大学入門
守る! 企業法学
小樽商科大学高大連携チーム 編
1,500円+税
ISBN978-4-8188-1768-5
日本経済評論社


大学の授業記録・教育原理 第1巻
戦後教育の検証 そして
 村田栄一 著
2,300円+税
ISBN978-4-7845-0789-4
社会評論社

大学の授業記録・教育原理 第2巻
学校神話からの解放 そして
村田栄一 著
2,700円+税
ISBN978-4-7845-0790-0
社会評論社

なぜ公立高校はダメになったのか
小川 洋 著
2,200円+税
ISBN978-4-7505-9903-8
亜紀書房


被抑圧者の教育学
パウロ・フレイレ 著
1,845円+税
ISBN978-4-7505-7907-8
亜紀書房

子どもと読む 教育基本法
教育基本法を読む会 編
1,400円+税
ISBN978-4-87672-216-7
雲母書房

ナトセンのこれが教師だ
名取弘文 著
1,700円+税
ISBN978-4-87672-171-9
雲母書房



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