同時代社

2007.06.12.up

　「韓流ブーム」のおかげでぐっと親しみを感じるようになった韓国。映画、音楽、料理などの韓国文化が日本中を席巻し、キムチ、チジミ、キムチ鍋が食卓の定番メニューになっている昨今だが、そのブームの陰で派手なスポットライトを浴びることのないもうひとつの韓国がある。本書『鉄条網に咲いたツルバラ』は、準先進国にまでなった韓国がもっとも苦しかった時代、その経済成長を支え、民主化のために闘った韓国女性八人のライフストーリーである。家計を支えるために工場に入った彼女たちは、背伸びをしながら機械を操作し、男性の班長や組長の怒鳴り声に肝を冷やし、理不尽な会社の横暴に憤慨する。本書に登場する女性たちのなかには、東一紡織、九老同盟ストライキ、ＹＨ貿易など韓国労働運動史に記録された闘いの闘士たちも登場するが、闘いに目覚め、仲間たちとの団結を信じて闘った彼女たちは根っからの「闘士」ではなかった。悩み、苦しみ、そして立ち上がっていった彼女たちの苦闘は、軍事独裁との闘いであり、儒教文化の根強い女性差別との闘いであり、高度成長にひた走る資本家たちとの闘いだった。そのなかで彼女たちは「闘士」になっていったのだ。女性作家パク・ミンナさんが彼女たちの思いに共感しつつ描き出すライフストーリーは、女性たちの苦悩を生き生きと伝え、韓国社会の実相を描き出している。しかし、読者はそれが決して昔のことではないことに気づくだろう。格差社会の日本に垣間見える女性たちの苦悩にも共通することを知るだろうし、思いを同じにできるだろう。韓国の有名な民衆歌謡『人は花より美しい』の言葉どおりに、八人の韓国女性たちのライフストーリーのなかに本物の「美しさ」を発見するに違いない。もうひとつの韓国、本物の「美しさ」に出会ってみませんか。

（本書翻訳・監修　大畑龍次）

パク・ミンナ／著、大畑龍次／監修
四六判並製　294頁　13級　定価 2,500円＋税
ISBN978-4-88683-599-4
同時代社

《本書登場人物》

イ・チョンガク
一九四八年生まれ。七八年「東一紡績汚物事件」の闘いで逮捕。現在、仁川「青い松の家」館長。

ユン・ヘリョン
一九六一年生まれ。八五年九老ストライキ闘争に参加。九五年「共同体被服」代表。ソウル女性労働者会会長。

パク・シンミ
一九六六年生まれ。九三年にテヤンゴム偽装廃業闘争に参加。非正規職労働者の才能教育教師労組で活躍。

パク・テヨン
一九五五年生まれ。七三年ＹＨ貿易に入社、七九年新民党舎籠城闘争に参加。九一年から富川女性労働者会会長。

ウォン・ミジョン
一九六〇年生まれ。八九年仁川セチャン物産偽装廃業闘争に参加。九五年以降仁川市議。

チョン・ソンスン
一九五八年生まれ。八二年に元豊毛紡組合死守闘争に参加。九五年にソウル市議会議員。

パク・ソンヒ
一九六三年生まれ。八九年スミダ電機廃業で日本遠征闘争。現在、全国女性労働組合慶南支部事務局長。

イ・チョルスン
一九五三年生まれ。キリスト教系労働者支援組織ＪＯＣ、アジア女性委員会等歴任。韓国女性労働者会協議会会長。


＊

ＮＲ関連書　もうひとつの「韓国」現代史