2006.09.25.up


新幹社 韓国野球の源流 



今日の韓国野球発展の礎を築き、
日本と韓国の野球の架け橋となった男たちの生き様から、
知られざる日韓交流史を描くノンフィクション。



  21歳(史上最年少)で最優秀選手賞になったイ・スンヨプ(1997年)。


『韓国野球の源流』を書いて 

       大島裕史(おおしま・ひろし/ノンフィクション作家)

3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本、アメリカを破りベスト4に進出するとともに、巨人の主砲として孤軍奮闘の活躍をしているイ・スンヨプを輩出した韓国野球。その発展に決定的な役割を果たしたのが、終戦(解放)から日韓の国交が結ばれる60年代までの激動の時代に、玄界灘を渡った男たちであった。
 今から60年以上も前、早稲田大学正門近くに、一軒の朝鮮料理食堂があった。韓国の全羅道で高麗人参を栽培していた一家が、一人息子の金永祚(キム・ヨンジョ)を早稲田大学に入れるため、畑を売り払って、早稲田に引っ越してきたのだった。
 金永祚は野球選手としても頭角を現し、帝京商業(現、帝京大学高校)では、夏の東京大会に2回優勝したが、戦争などにより、2回とも甲子園には行けなかった。帝京商業の1年後輩には、後に「魔球」と呼ばれたフォークボールを武器に大投手となる杉下茂がおり、2人は生涯友情を育んだ。
 そして金永祚は、晴れて早稲田大学に入るが、すぐに東京六大学野球は戦争によって中止。一時、プロ野球でプレーしたこともあったが、東京への空襲が激しくなる中、早稲田大学に熱い思いを残しつつ、祖国に戻った。
 日本球界の「幻の名選手」であった金永祚は、解放後の混乱が続く韓国野球界で、強肩強打の名捕手として活躍した後、指導者として韓国野球を引っ張っていく。
 金の指導を受けた選手の中に、62年に戦後初めて玄界灘を越えて日本のプロ野球に入った白仁天(ペク・インチョン)がいた。43年に中国の無錫で生まれた白は、子どもの頃から日本のプロ野球に入ることを夢見ていた。
 62年1月、台湾で開催された第4回アジア野球選手権の後、白仁天は東映に入団する。白の日本行きには、日韓関係を取り巻く、当時の政治的状況も、密接に絡み合っていた。
 この台湾でのアジア野球選手権で、捕手であった白仁天とバッテリーを組んでいたのが、現、千葉ロッテコーチである金星根(キム・ソングン)であった。金は京都・桂高校出身であるが、韓国の実業団でプレーしていた。しかし、日韓に国交がなかったこの時代、日本への再入国許可が下りず、親兄弟と別れ、韓国に永住帰国する。その後金は、韓国プロ野球を代表する名将として、韓国野球の発展に寄与する。
 韓国野球は60年代に急成長を遂げるが、その核となったのが、金星根をはじめとする日本出身の韓国人であった。65年の第5回アジア野球選手権で、韓国に初優勝をもたらしたのも、在日韓国人のバッテリーであった。
 日本出身の韓国人たちは、日韓双方で差別を受け、日韓国交正常化、在日朝鮮人の北朝鮮への帰還問題など、社会の荒波に翻弄されながらも、野球を続けた。それは、彼らが生きていくためであり、韓国野球発展のためでもあった。
 そんな野球人たちの足跡を、数年の歳月をかけ追っていった。日本と韓国で名前が異なる彼らの、まず日本名をみつける作業からしなければならなかったが、日韓合わせて40人以上から集めた証言と資料から浮かび上がってきた彼らの足跡は、単に韓国野球発展の歴史に止まらず、日本の野球史や日韓関係史、在日コリアンの歴史の一断面でもあった。
 今日の韓国野球発展の礎を築き、日本と韓国の野球の架け橋となった男たちの生き様から、知られざる日韓交流史を描くノンフィクション。ぜひご一読いただきたいものである。



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