■01 みなれた景色の中にあるおもしろさ

 友人の家から、犬が姿を消した。
 その犬は、小犬を生んでまもなく、伝言もないままに町のどこかに行ってしまった。
「それでさ、今度の土曜に一緒に探してくれないか」
 冗談ばかり言い合う仲が、このときばかりは少し違った。日にちが経った時点で探しに行くことに、大きな期待はしていなかったようだったけれども。
 とにかくお互いの都合のあった土曜日に、自転車2台、地元の町を巡回することになったのだ。
 すがすがしいほどの青空で、やたらと僕は体調もよかったりして、珍しく午前中からの集合、捜索ははじまった。
 いつもの町に、見知らぬ場所が点在していたことを今でもよく憶えている。
 地元柄、空に飛行機が轟音をたてているのは珍しくない。その日も空にはヘリコプターがじゅんぐりとこの町を見下ろしていた。
 僕はこれを勝手に解釈して、あのヘリコプターも母犬を探しているのだと考えてみた。
 結局、再会はなかった。半日がかりのサイクリングは終了した。

 数年が経って、友人とその日のことを思い出した席で、思わぬ展開があった。
 意外にも、友人はあのときの空にヘリコプターを憶えていなかった。
「おいおい、一緒に捜索してたんだぜ」
 僕は想像を押し付けながら、記憶なんてそんなものかと少しばかりがっかりした。
「それよりか、あのふたり・・・」
 その日、僕らは捜索の途中で、えらく大袈裟にケンカする恋人たちを見たらしい。友人はその彼女がとても印象的だったという。
 当事者であるはずの友人は、僕よりもずっと現実的になっていたのか。
 とにかく町が違う空気の中にあった。不思議な緊張感で、自分の住む町を眺めると、そこにはいくつもの時間が流れていたことに気がつかされる。

 別のとき、黒電話の大きなオブジェが野ざらしになっている場所を、その友人に見せたことがある。友人は急に呼び出され、あまりにくだらないオブジェを見せられたことで、僕に説教をはじめた。
「いいか。これを見せられてどうすりゃいいんだ。次を考えて行動しろよお」

(NR事務局 板垣 5/26 個人サイトもどうぞ

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(NR事務局 板垣)

2004年5月下旬
東海発 バカルト紀行
大竹敏之/文、温泉太郎/マンガ
風媒社 ¥1400+税
東海エリアの珍スポット、怪スポットを行脚する「珍日本紀行」。個人の趣味丸出しのテーマパーク、人生を捧げて作り上げた五重塔……。観光案内には載せられない味わい深い裏スポットを徹底案内する、愛と笑いのマンガエッセイ。

ISBN4-8331-0109-2

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